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最高裁判所第二小法廷 昭和53年(オ)924号 判決 1979年2月02日

上告人

佐藤秋政

右訴訟代理人

飛澤哲郎

被上告人

垣本機鋼株式会社

右代表者

垣本義治

右訴訟代理人

稲本忠

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人飛澤哲郎の上告理由第一(1)、(2)について

請負契約における仕事の目的物の瑕疵につき、注文者が請負人に対し、あらかじめ修補の請求をすることなく直ちに修補に代わる損害賠償の請求をした場合には、右請求の時を基準として損害賠償額を算定すべきものであると解するのが相当である。したがつて、注文者が瑕疵修補に代わる損害賠償を請求したのち年月を経過し、物価の高騰等により請求の時における修補費用より多額の費用を要することとなつたとしても、注文者は請負人に対し右増加後の修補費用を損害として右費用相当額の賠償の請求をすることは許されないものである。それゆえ、所論の点に関する原審の判断は、結論においてこれを是認することができ、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第一(3)及び第二について

所論の点に関する原審の認定判断は、本件記録及び原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解を主張するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(吉田豊 大塚喜一郎 本林譲 栗本一夫)

上告代理人飛澤哲郎の上告理由

第一、原判決には、理由不備(民訴法第三九五条第一項六号)がある。

(1) 上告人は、原審において、本件基礎工事の瑕疵修復に代わる損害賠償額を、従前主張額金三、〇八八、〇〇〇円から、金四、五六一、〇〇〇円(昭和五二年三月二日の現点)に増額して反訴請求の趣旨を拡張したが、原判決によると、本件の請負代金額が金九〇〇万円(別棟の工場の二階炊事場及び便所新設工事を含む。)であることや、本契約締結から着工までの事情(第一審判決理由四1(一)ないし(四))を考え合わせると、右見積りによる工事が直ちに被上告人が本件請負契約によつて施工すべかりし工事に照応するとは認め難く、むしろ、上告人が被上告人に対し請求しうる損害賠償額は第一審認定の金三、〇八八、〇〇〇円を以つて相当と認めるとして、右反訴請求の拡張部分を排斥した。

(2) 然し、右の原判決は、左の各点から、理由不備と考える。

(イ) 第一に、本件請負代金額が金九〇〇万円であることを、判断の根拠としたのは、次のような較量をしたものと窺える。

即ち、もともと請負代金が金九〇〇万円なのであれば、その瑕疵修復に代わる損害賠償額が金四、五六一、〇〇〇円となると、五〇%を超える比率を占め、均衡を失すると考えたと思われる。

けれども、本契約は、昭和四六年七月二三日に結ばれたものであり、上告人が同損害賠償額を算定した時期が、昭和五二年三月二日であるから、その間、約五年八ケ月の経過があり、諸物価の異常な昂騰、貨幣価値の急激な変動などを考えれば、単純に、両者の数額を対比して衡量するのは不合理である。

(ロ) 第二に、本契約締結から着工までの事情(第一審判決理由四1(一)ないし(四))を判断の根拠としているが、第一審判決理由四1(一)ないし(四)の判示事項のうちのどの点を捉えたのか、よく理解できない。

(ハ) 第三に、上告人主張の瑕疵修復に代わる損害賠償額の見積りによる工事が直ちに被上告人が本契約によつて施工すべかりし工事に照応するとは認め難い、というが、ならば、金三、〇八八、〇〇〇円の限度で認容した第一審判決及び原審判決は、金三、〇八八、〇〇〇円の限度で、被上告人の施工すべかりし工事に照応すると認めたということになろうが、何故、金三、〇八八、〇〇〇円の限度ならば照応し、金四、五六一、〇〇〇円では照応しないのか、彼此分つ合理的な判断というものが全くなく、先に述べた如く、本契約の請負代金額との衡量や、本契約締結から着工までの事情を考慮した、というだけでは全く根拠に乏しく、およそ合理的判断とはいえず、理由のない判断といつてよい。

(ニ) さらに、損害賠償額の見積りが被上告人の契約上施工すべき工事に照応するかどうかという観点から判断するのであれば、原審は、上告人の申出た証人長妻五郎を採用して証人調を行ない、乙第一六号証、乙第一七号証の一を詳細に吟味すべきであるのに、右証拠の申出を却下している点も承服し難く、その意味で、審理不尽ということもできる。<以下、省略>

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